ウエルネスリゾートが示すサステナブルコンセプトとは -如何にして世界に自らを示すのか-
今回は、モルジブに行こうとする日本のツーリストに最も評価の高いエルネスリゾートを紹介する。
それはギリ・ランカンフシ。 モルジブに2002年にオープンしている。
その評価は常にその地域、或いは世界でトップクラスにランクされてきており、特にトリップアドバイザーのワールドトップ25では、1位を含む常に10位以内を数年間継続するという伝説的な快挙も成し遂げてきた。
サステナブルを体現
昨今言われ始めたサステナビリティコンセプトのはるか以前から、それをメインコンセプトにオープンしたモルジブのギリ・ランカンフシは2002年にオープンしている。
それはリゾートスパの絶頂期でもあったため、ウエルネススパの一つの完成形を示している。
そのハードは、廃材・リサイクル材、自然素材を基本としている。其のため、いわゆる新しく、見た目豪華なラグジュアリーを求める顧客には、古い・汚いと評される。しかし、結果としてコンセプトの理解できない顧客層は来ない。
自然素材で出来上がったリゾートということは、化繊やプラスチック等石油製品や化学合成物は基本的に無い。当然室内のファブリック類においてはコットンかリネン等になる。
例えば歯ブラシは木製で、ユニークなのは竹製フレームの自転車、等々徹底している。
リゾート内にリサイクル工房があり、室内のインテリア家具なども当然古材で自家製。

廃材針金を利用した自家製ランプシェード
オーガニックガーデン
モルジブの国土とはサンゴ礁で出来た小さな島々のため、農業をするための面積も土もない。其のため、野菜、果物は全て輸入。日持ちするものは船でも可能だが、新鮮さが必要なものは空輸になる。しかし、ここにはハーブや葉物野菜を育てる菜園があり、宿泊客は常にその食事の直前に採れたものを食することが出来る。この菜園、勿論オーガニックで残飯がコンポストになっている。
ミーラスパとプラクティショナーの存在
このリゾートで良く知られたコンセプトに、No News・No Shoesがあり空港から送迎のボートに乗った時点で靴を脱がされ、帰国時の空港に向かう船の中でその靴を履くまで、滞在中は裸足で過ごすことになる。ウエルネスを理解する人なら、裸足の理由はいうを俟たず。
(日本から来た所謂インテリ職業の上位のタイトルを持つ熟年の女性が、裸足でいることが無作法とでも思ったのか、頑としてそれを拒否していた人がいた。そして、最後までこのウエルネスリゾートのコンセプトが理解できずに、よって彼女にとってギリ・ランカンフシはすこぶる評価の低いリゾートであった。)
モルジブという場所は、北半球から来るゲストにとって気候療法の効果は高いのは当然だが、特にこのランカンフシ島が見せる視覚からの刺激はモルジブ通の人々の中でも高い評価を得ているようだ。
スパの世界でプラクティショナーとは熟練したヒーラー、専門的な施術者をさし、同時に指導者でもある。
ミーラスパでは、世界的に優れたプラクティショナーを数か月ごとに招聘し、ゲストサービスに努めるだけではなく、一般スパセラピストへの教育も行うことで技術的にもハイレベルなスパを維持している。インドとスリランカとの距離の近さもあり、アーユルベーダのメニューも充実している。
この原稿を書いている時点では、理学療法とホリスティック・ヒーリングの熟練プラクティショナー、ヌムティップ・プンタ女史が2か月ほど滞在中で、その期間ゲストは彼女の無料セッション、チベタン・シンギングボウルを体験することが出来る。
世界も注目する海洋生態系の保全活動
ギリ・ランカンフシが環境に果たしている役割で世界的に著名なものでは、サンゴの再生プロジェクトがある。The Coral Lines Project コーラルラインプロジェクトという。
モルジブはサンゴによって形成されたこの島国。そのサンゴは観光業だけでなく、地元の人々の生活をも長い間支えてきている。 そして、最近は海草藻場の保全活動へと範囲を広げている。海草藻場は海の肺と言われるほどに、二酸化炭素の吸収量は地上植物の最大35倍と言われている。
そのため、ギリ・ランカンフシは島を取り囲む豊かな海洋生物多様性に最大限の注意を払うリゾートとなっている。
2012年以来、海洋生物学者をリゾートスタッフとして雇用し、2014年、モルジブで初めてサンゴ礁のローテクかつ高効率な回復技術を開発したリゾート。境保護活動の中心ギリ・ベシという海洋調査施設を設け、サンゴ礁を管理し、環境意識を広め、ゲストの体験をサポートし、生態学的問題について広く一般にも情報を提供するだけでなく、学術レベルで海洋生物の調査研究を行い世界的な研究チームと連携している。海洋生物学者のチームはゲストに対しても海の環境保護の教育を行い、そのアクティビティに参加させている。
存在感を示すホテルマーケティング
これらのウエルネスやサステナブルのプログラムやアクティビティは他にも多々あるが、それらを割愛し、これらの活動を如何にして世界の消費者に伝えていくのかを紹介する。
日本は世界と比べて、ウエルネスツーリズムの選択肢が少ないか無いに等しい状況だ。
今の世界は、ウエルネスやサステナブルを意識したツーリストが多く、世界最大級の宿泊予約サイトBooking.comの調査によると、世界の旅行者の76%はそれを意識した旅行を望んでいる。それでは、世界の人々はどの様にしてウエルネスツーリズムに適したホテルを選んでいるのか。
世界にはサステナブルレベルを認証する機関が幾つかある。スパに関しては体験するゲストの個人差があるので、科学的な基準値を設定するこてとは難しいが、サステナブル(ウエルネスを含む)の視点では測定可能な環境パフォーマンスでそのレベルを見ることが可能だ。その中の一つで、おそらくこれが一番厳しく信頼のおける認証機関として「EarthCheck」アースチェックがある。
現在アースチェックから認証を受けているホテルは世界に1000軒程あり、そのリストを見ると、一流の世界的チェーンホテルに参加しているホテルや、独立系の知る人ぞ知るホテルの名が並ぶ。ギリ・ランカンフシは勿論毎年のアースチェックの認証を受けている。
そして、日本のホテルはとなると、僅かに4軒。昨年チェックした時にはペニンシュラのみだったので、この一年で3軒が増えたことになる。ザ・ペニンシュラは2014年に初めて認証を受け昨年まで日本においては10年間唯一無二だったわけだ。今年のリストでは、パークハイアット京都、パークハイアットニセコ、パティナ・大阪の3軒が新たに加わっている。
他にもこの種の認定機関はあるが、GSTC(世界持続可能観光協議会)が認定した宿泊向けの認証機関はアースチェックだけなので、その信頼度は最も高いことになる。
これらの認証を取得には多くの努力と投資が必要になるが、その分は消費者がそのホテルに信頼をおいて支払うという相関関係になる。
ウエルネスツーリズムは、そもそもホテルのスパをいかに世の中に認知させるか、というマーケティングから始まっている。つまり、我がホテルはその種のホテルですよ、と認証を受けること自体はホテルマーケティングの一環なのだが、残念ながら日本ではこの認識が無い。