ウエルネスツーリズムのサプライヤーになるには?

世界ではウエルネスツーリズムを認識している消費者は多いのだが、日本のサプライヤー側、ツーリズム業界の主体である宿泊業界や旅行業界においては、いまだにウエルネスツーリズムの意味や趣旨を十分に理解できていない人たちがいるようだ。この問題、2025年の第三回国際ウエルネスツーリズムエキスポ(2025年6月25日 (水)~27日(金))にJSWTとして参加することで、この点を改めに再認識している。というのは、日本のホスピタリティー現場が消費者趣向を理解していないということは、その消費者の満足度は上がらない、或いは期待度に対して失望レベルにさえなる、ということだ。
必要な解説は多々あるが、ここではウエルネスツーリズムの経緯のみに限って改めて要点のみ述べてみたい。

これは世界レベルでの話だが、従来のスパのあるリゾートホテルのウエルネスに対する認識が深まり、それぞれが持つスパプログラムにメンタルウエルネスを意識したプログラムが加わるようになる。そして、これまでのエココンシャスとサステナブルなライフスタイルやマネジメントへの意識向上により、それらを統合したコンセプトのウエルネスリゾートが誕生して来る。つまり、スパ施設とそのプログラムだけに関わらず、リゾート全体の施設・ハードの在り方、オペレーションや食の提供などの諸々を含んだマネジメント全体の問題として進化してきたリゾートホテルを、ウエルネスリゾートと総称するようになってきた。


サロジンンのスパも有名だが、56室のリゾートにしてアウトドアのプログラムだけでもその数実に50前後もある。ゲストに長期滞在する理由を提供し、リピートする理由を与えている。

一方、従来のデスティネーションスパは、消費者側からすると進化するスパリゾートとの差が見えづらくなり、彼らに消費者が奪われる様な状況が生じ始め、特にストイックさまでは求めていない消費者の動きに危機感を抱き、消費者にはハードルを下げたような印象を見せるためとか、我々こそウエルネスを意識したウエルネスリゾートであると表現するために、これまでの名称にウエルネスを加えたり、副タイトルや解説にウエルネスを以前にもまして強調するようになっている。例えば、世界的に著名なキャニオンランチは、気が付くとCanyon Ranch Wellness Resortになっているし、アジアで知られたチバソムはChiva-Som Hua Hin, a premier wellness resortとかZulal Wellness Resort by Chiva-Somなどとなってきたのだ。


キャニオンランチは健康意識の高い富裕層ゲストが利用している。

このようにして世界では2006年以降、ウエルネスを強調するリゾートホテルが増え始めたことにより、従来はヘルスツーリズムと言われていたツーリズムが、いつの間にか、大よそ10年程前からウエルネスツーリズムと呼ばれるようになってきたわけだ。


ラリンジンダ・スパ&ウエルネスリゾートは正に2006年にオープンしている。元は150年以上も前のチーク材による医師ジンダ博士の邸宅を現在に蘇らせている。

因みに、ヘルスツーリズムの場合は、これは明確にタイ政府が2003年国策としての「ヘルスツーリズム」「メディカルツーリズム」を推進するとして、世界的な認知を得たツーリズム名称である。

それでは、ウエルネスコンセプトを進化させてきたリゾートが、全てウエルネスを名称に加えているわけではなく、従来からの名称のままのところも多い。あるいは、見た目だけをそれっぽくして内実を伴わないウエルネスもある。例えば、貧相なスパだけ持ち名称にウエルネスを付けただけの、ナーんちゃってウエルネスや、見た目立派なウエルネスリゾートなのだが、実際には環境破壊を行って造られたウエルネスというのもある。
従来の名前のままの中には、とても先端を行くウエルネスコンセプトのウエルネスリゾートなのだが、ことさらウエルネスを強調することもせず、しかし明らかに高満足度を消費者に与えているウエルネスリゾートもある。
どれが本物であるかはバックヤードを見ると一目瞭然なのだが、消費者がそれをのぞき込むことは難しい。それゆえ、消費者評価やメディア情報を客観的にチェックすることが一つの方法ではあるが、それも評価する側の認識の違いや誤解で客観性が失われるケースもある。一番確実な方法は、世界的な認証機構による科学的な評価を見ることである。とはいえ、これもコストのかかることで、皆が利用できる方法とも言えない。

つまりウエルネスツーリズムで消費者を獲得するためには、ホテルマーケティングを行うことが一番必要ということである。