昔から人びとはウエルネスツーリズムを実践してきた
ヘルスからウエルネスへ
スパのイノベーションが起きたのは1993~95年のタイでした。
それは一気に世界的なブームになり2003年にタイ政府は、タイはヘルスツーリズム・メディカルツーリズムの世界のハブになる、と世界に向かって宣言します。
そして、NSPA(JSWTの前身)は2004年にISPA(インターナショナル・スパ協会)のアジア太平洋地区のコンファレンスと展示会を開催し、日本でのスパ時代の到来を紹介しました。
その当時、スパの紹介として伝統療法とか補完代替療法という単語が使われ、普段使われないホリスティックとか、今も意味不明(概念的な)なウエルビーイングとかの単語も登場してきてスパを説明していたのです。それは、ある意味とても理屈っぽかったと思います。
しかし、2006~07年ごろからスパ業界にウエルネスという表現が登場してきます。これは、スパ事業を実践している現場スタッフ達の積極的な意識の表れでした。
自分たちは人々の健康を担っていく、我々の仕事は健康産業である、金持ちだけ(当時のスパはデラックスホテルのスパがメインで多くの人には利用が難しかった)が健康・ヘルスで良いのか、健康維持にはメンタルも大いに関係している、、、など等です。
その現場スタッフというのは、多くはホテルのスタッフやマネジメントチームということです。そしてホテルオーナーもそれに応じていきます。彼らのウエルネスの議論の中から、そのホテル名やスパの名にウエルネスの名前を加えるホテルも登場してきます。そして、いつの間にか、ヘルスツーリズムがウエルネスツーリズムと人々は表現を変えてきたのです。

ザ・ペニンシュラ スパ&ウェルネスセンター
ウエルネスツーリズムは今も昔も同じ
ホテルとホスピタルの語源は同じです。ラテン語でホスペスは客人へのおもてなしを意味します。考えてみれば、それは昔からそうだったのです。人びとは癒しや治療を求めて遠くから旅をしてそのホスピタルにやってきました。
トルコ旅行を経験した人なら多くの人が訪れているベルガマにペルガモン遺跡があります。
ペルガモンは当時世界最大の図書館と最先端医療を施すアスクレピオンがあったところです。アスクレピオンとは公的医療施設、「聖なる」病院、医学教育センターであり、紀元6世紀頃から紀元2世紀頃までの地中海世界の各地にあり、最大時には約320か所があり「聖なる医療ネットワーク」が構築されていたとあります。
その中でも有名なところがエピダウロス、コス島、アテネ、コリントス、ペルガモンがあげられますが、保存状態が良く現在の我々日本人にも良く知られているのがペルガモンでしょう。
因みに医学の父ヒポクラテスは、コス島で医学を学び現在においても『ヒポクラテスの誓い』として全ての医師に敬われています。
本格的に癒しを求める人、先端医療を受けようとする人は、それらの遠く離れた場所へ旅をしながらやってきたのです。つまり、それは当時のメディカルツーリズムであり、現在のウエルネスツーリズムに相当するものであったわけです。

写真トルコ政府観光局
ベルガモンのアスクレピオンで治療を受けようとする者は、聖なる道(薄暗いトンネル)を潜り抜け医療センター(水治療法、ハーブ療法やマッサージ療法、運動療法‥等)に向かうのですが、患者はその途中、所々で聞こえてくる神の声を聴きます。医者たちが「あなたの病気は治る」「大丈夫、元気になる」などのポジティブ思考に変えるため神の声として囁きかけたのだそうだ。
病は気から、メンタル療法による治癒率は高かったという話は今に伝わっています。
現代の医学者達の表現を借りれば、アスクレピオンの医療レベルは心療内科としては今も昔もほゞ同じなのだそうです。