温浴トレンド

日本におけるツーリズム・ホテル業界の問題は、常にトレンドの後追いをしているということ。つまり、トレンドの主導権は常に消費者が持っていることを意味する。
そのトレンドに業界が追いついた時、実は新しい次のトレンドが始まっているということを日本の業界は繰り返している。
現在の国際的な旅行トレンドはウエルネスツーリズム。日本では一般消費者は意識的ではないにしてもそのツーリズムトレンドで動いているが、肝心の旅行業界・ホテル業界は未だにそのツーリズムトレンドへの理解が十分でなく、焦点が定まっていないように思える。
やはりこの業界はトレンドの先取りが出来ないのだろうか。
現在、世界のツーリズムで新しいトレンドが見えてきている。それは日本が得意とする「ウエルネス」の分野なのだが、日本の業界人たちはそれを見ているのだろうか。
まず、この先のトレンドの主導権はZ世代である。Z世代とは、「1997年前後~2015年前後の間に生まれた世代」。
例えば、日本のアウトバウンドはコロナ以後、以前の勢いを失ったまま。コロナ後に気が付くと日本円の安さと諸外国のインフレによる物価の高さと、世界の国境が開いたのに下らない航空運賃の高さ。既存の消費者は諦めるか行き先を変えるようになっている。
しかし、この中でも期待できるマーケットが存在する。それは、海外旅行未経験者の20代女性。これがZ世代である。彼らは1ドル100円の時代を知らない。彼らにとって1ドルは150円なのだ。
男女も含めてこのZ世代の特徴は、デジタルネイティブであり、情報はSNSからとり、グローバル志向でありダイバーシティ的である。一方、経済的には保守的な面をもち、実用性判断と価値評価に重きを置く。結果としてよく言われているのが、アルコール消費が少なく上司との飲み会には消極的となる。そして、個人にせよ仲間同士でも日帰りか一泊の温泉を楽しむというのは、やはり日本人だからだろうか。

では、海外のZ世代のトレンドはとなると、これが世界的に象徴的な傾向としてアルコール消費が少ない。当然、飲み会も少ない。そして、旅行の傾向として明らかに「温泉旅行」に興味があるらしいのだ。おそらく、これはウエルネスツーリズムのトレンドから生じているのだろうとは想像できる。
Spa Businessでは具体的に以下の点を挙げている。
「サーマルリズム(Thermal Tourism)のTikTok化」と表現されているが、ある月のTikTokでハッシュタグ「温泉」が12万回もの再生回数を記録している。
トリップアドバイザーでは、温泉リゾートの予約が過去一年間で157%増加している。其のコメントとして、「若い世代はアルコールから離れつつあり、新たなコミュニティプラットフォームやウエルネス体験を求めている」。
国連世界観光機関(UNWTO)のコメントは、「温泉観光がニッチ市場から主流へと移行する・・・」とある。
そして、このZ世代の所得は2030年には世界の25%になるとなれば、将来を見据えたツーリズム投資の方向は結論として見えてくる。

世界最大の温浴企業を目指すテルメ・グループ
日本は世界一の温泉大国を自負している間に、海外ではウエルネスツーリズムのトレンドから、既存のヨーロッパ各地の温泉街では時代に合わせた温泉ツーリズムへの再構築を進めている。
特徴的なのが、温泉・温浴施設を提供するサービスに特化した企業が大胆な世界戦略を展開し始めていることだ。スイスのウィーンに本社を置くテルメ・グループは、熱交換テクノロジーを世界的に牽引するグローバル企業A-Heatの傘下で、現在ヨーロッパに4つの巨大な温泉・温浴施設を所有・運営している会社。
かれらの施設は、温泉、屋内ウォーターパーク、植物園と融合したスパであり、「最先端のウェルビーイング・オアシス」と称されているが、日本の日帰り温泉、スーパー銭湯、健康ランド、スパ+医療系伝統療法のクリニック等を加えたようなものであり、更にウォータースライダー等を持ったアミューズメント的ウォーターパークの他に、音楽や芸術、教育に文化プログラム等を含め、食事にショッピングなども用意して、「ウェルビーイングのディズニーランド」であるという。


そして、最近大手の投資ファンドもテルメ・グループの投資に加わり、英国・欧州と北米の複数個所の開発が進行中で、アジアはドバイや韓国にシンガポールへの進出が昨年・今年とそれぞれ決定しており、その世界展開は急加速しているようだ。
ターゲットは地元住民もそうだが、メインはここを目指すツーリストになる。
ブカレストの例でみると日に8000人を扱える規模。サイズは76,000㎡、東京ドーム1.6個分を超える。
彼らは一部を除き宿泊施設を持たず、テルメのあるエリアの宿泊業界と共にマーケティングを行っている。また、各地元の医科系大学との共同研究も進めている。
数年後のオープンだが、シンガポール政府観光局の気合の入れ方は何時もながらだ。
と、ここで気になるのが日本である。
パブリックな温泉・温浴施設は日本の十八番であるが、この世界的なトレンド方向に日本の温浴・ウエルネス業界は気が付いているのだろうか?


この規模が次世代に受ける、ということなのか。
どうする日本?である。
