ウエルネスリゾートのターゲット戦略 サムイ島編

自分の立ち位置とターゲット設定をどこに置くか?

日本でのウエルネスツーリズム解説やレクチャーを見ていると、その参考例や対象が富裕層をターゲットにしているケースが多い。たしかに、一般メディア上での露出としては富裕層向けハードの方が見栄えが良いし、ADR(客室平均単価)も高いので象徴的なターゲットとして取り上げたい対象にはなる。しかし、これからウエルネスツーリズムに取り組もうかと検討している諸企業の方々からすると、富裕層向けの投資はハードルが高いと考え込む。しかし、実態は如何なのだろうか。

ヘルスツーリズム=スパリゾートの時代は、確かにラグジュアリーなホテルによくできた施設としてのスパに注目が集まっていたが、メンタルヘルスにも焦点があてられるようになるとスパ(施設)は必ずしもコアなものではなくなり、ホリスティックな観点からウエルネスの中の一つのコンテンツという理解が生まれてきた。同時にサスティナブルコンセプトがそこに加わることで、ウエルネスツーリズムの意味する内容がより範囲の広いものになってきた。これにより、これまでチープなもの、古いと見られていたハードにも価値を見出されるようになってきている。
そもそも、経験豊富なウエルネス目的の富裕層は2000年代に入った時期に、既に見せかけの高級リゾートからは卒業している。これに関してはいずれの時期に説明する。

ウエルネスリゾートの集積地サムイ島

ウエルネスツーリズムの先進国であるタイのサムイ島といえば、第一回目のコラムで紹介した、現在世界一と評されるウエルネスリゾートであるカマラヤのある島だが、この小さな島には様々なタイプの、そして数多くのウエルネスリゾートがある。恐らく世界で一番集中している場所ではないかと思う。
その中の一つを今回紹介する。
日本の小資本でも参考にできるウエルネスリゾートの一つかと思う。

Baan Boom Boxes Eco Friendly Resort 
バンブーボックス・エコ・フレンドリーリゾート

タイ人オーナーのプラパンさんは、元はタイの大林組で8年間働き、20年前一発奮起で独立、サムイ島で建築資材店を開業。その傍ら家族に残す財産として8年前にリゾートホテルを開業。それが「サムイの隠れた宝石」といわれるリゾートホテル。

サムイ島北部のビーチに沿ったメイン通りから山側に入り、以前はゴミ捨て場だった軟弱な土地4800㎡を購入。
そこに、ガーデン兼オーガニックファーム、駐車場等を配置し、コンテナを並べ置いた22室の客室コテージを設置しエコフレンドリーなウエルネスリゾートを創った。
コンテナを利用した客室デザインはミニマルで、全室の正面にテラスと、屋上テラスも設け、占有スペースをコンテナサイズの2倍以上にしている。その上に更にソーラーパネルを置き、このリゾート全ての電気を作り出している。電力会社からの配線は無い。
水は行政による水道を引かず、裏山の自分の土地(9600㎡本業で利用)に設けた貯水池の水を利用している。(タイはどの家庭でも、料理や飲用に利用する水は水工場で造られた水を買って利用しているので、それ以外に利用する水ということ。)

レストランの残飯と枯葉などからコンポストを作り、敷地内のあちこちで野菜や果物を育てている。驚いたのは、このリゾートで提供している食料の50%ほどは自家栽培というもの。この比率は非常に高い。鶏は40羽で毎日40個の卵を産んでくれるというから、勿論買う必要は無い。以前、当協会の研修旅行で泊ったタイの温泉ウエルネス、ワリーラックでは肉・魚・米以外の殆どを自給しているケースもあるにはあるが、通常はマーケティング的に利用できる程度の作物量でハーブや一部の野菜と果物程度だ。

他にもエコロジーでサステナブルな試みや運営を行っており、殆どの宿泊客から当然のごとく高評価を得ている。

離れた場所が良い場所

タイのサムイ島もとても人気の高いリゾートアイランドで、ここもオーバーツーリズムの影響を受けているのだが、このリゾートのロケーションはビーチから2.5Kmほど離れた山間の、周囲は濃い緑に囲まれている場所なので、静かな癒し空間になっている。宿泊客からは「ジャングルの中にいるようだ」と高い評価だ。
ビーチリゾートのサムイ島で山間に宿泊しそれでも高評価というのは、一般の日本人からすると少し不思議に思われるかもしれない。多くの日本人のリゾートに持つイメージは「ビーチリゾート」。それに対して内陸や山間のリゾートを「ヒルリゾート」という。ウエルネスリゾートの場合は一般的に「ヒルリゾート」の方が多い。ビーチにあるにしても、ビーチに対して傾斜を持った場所に配置するケースが多く、絶対的に周囲は緑に取り囲まれるように設定する。ウエルネス目的の客は濃い緑のある場所を好むからだ。

価格戦略は本物の積み重ねでリーゾナブルであること

このバーン・ブー・ボックスの利用者評価はとても高い。
各OTAの紹介やタリフ上でのクラス評価は3星で、レートも税サ込で1泊8千円前後からなので、この3星なら当然と思われるか、このコンセプトを知った上で判断すると、この時代ではとてもリーゾナブルな価格設定になる。
土地評価の低い土地で、オーナーが自ら資材を購入し自ら建てたとなれば、その初期投資は高いものとは思えない。そのコストパフォーマンスで高評価と理解される向きもあるかもしれないが、実際にはこのリゾートのコンセプトを理解しそれを目的に滞在するゲスト評価なので、その高評価は本物ということだ。
通常この手のリゾートには都会に住む、俗にいうインテリ富裕層的な客層や、クリエイティブな職に就いている客層が多い。そして、ハイシーズンはビーチ以上に予約が取りづらい。宿泊客の大多数がヨーロッパからのゲストになっている。

実際この手のリゾートの場合、旅慣れた富裕層&ウエルネス目的の客層=高級リゾートという図式は一般的に成り立たたないことを証明する。彼らが期待するものは、それが高級リゾートといわれるものであってもリサイクル材で出来上がった施設であったり、あえて古さを強調するような設備であったりする。実際、古民家を宿のリノベーションした施設の人気が高いのと同じだ。そのコンセプトを理解しないで来るお客には期待を裏切るものになる。ウエルネス指向の消費者や経験豊富な富裕層ほど、見せかけの高級リゾートやインターナショナルブランドは避ける傾向にある。
つまり、日本でウエルネスリゾートを造るには、便利な場所やお金をかけた宿泊施設は逆に彼らから選択されない可能性がある、ということだ。

ウエルネスマーケットの富裕層マーケティングに関しては別な機会に説明します。