上質なツーリストをウエルネスでお迎えしよう ~ウエルネスツーリズムでオーバーツーリズムを解決~

JNTO(日本政府観光局)ではインバウンド客を2030年には6千万人にする目標を掲げている。2024年は3686万9900人となり、日本各地の有名観光地でオーバーツーリズムが深刻な問題を引き起こしているにも拘らずに、なのである。そして、オーバーツーリズムの被害に被っている地域住民は、怒りと共にますます戦々恐々といった状況にある。

ところで、有名観光地に焦点を当てないツーリズムが今は世界的なトレンドになっている、という事実にJNTOは気が付いてほしいと思う。
それを「ウエルネスツーリズム」という。そして、これがコアにウエルネス経済という経済概念も生まれているくらいだ。

ウエルネスツーリズムは、健康(フィジカルにもメンタルにも)を意識しサステナブルな旅行を目的とした、時代の要求に則した旅行スタイルである。必然的に都会や人の多いところを避けた自然豊かな場所が目的地となり、客層的には知的レベルが高く探求心があり、一般的に消費額が大きい傾向にある。したがってこれら消費者は、ウエルネスコンテンツの豊富な場所を選択することになる。
実は、日本人にとって当たり前の生活環境や習慣などは、外国人からすると諸々特別なものになっている。つまり、インバウントツーリスト、それもウエルネスに興味のあるツーリストにとって、日本の自然環境や文化・芸術、食や生活習慣はウエルネスコンテンツとして世界的に注目されている。
日本は単なる円安で人気の旅行先ではないのだ。

健康に直接的に関わる温泉・温浴文化は世界に比類なきレベルのものであるし、山がちな地形には世界トップクラスの森林があり、今では森林浴はShinrin-Yokuという世界語になっている。日本食は美味というだけでなくヘルシーフードとして知られ、明確に区別のできる四季はツーリズムに限らずウエルネス的には「気候療法」であり、日本の独自の芸術や伝統芸能、或いは禅や武道などのメンタルを刺激するコンテンツも豊富にある。
ところが、それらウエルネスコンテンツを求めて日本にやってくるツーリスト達は、目的を達せずに帰国してしまっている、という結果が各種の調査で明らかになってきている。

昨年の8月の「やまとごころ」のレポートによると、期待度に対して満足度が低いという結果が出ている。

出典:やまとごころ.jp

昨年10月に発表された㈱日本政策投資銀行と(公財)日本交通公社との共同調査においても同じ傾向の調査結果が出ており、低い満足度を与えてしまっていることが想像できる。日本としてウエルカムしたいはずの客層は日本にリピートしないか、或いは他国と競合しているというデータも出ている。
つまり、極端な表現をすると2030年の6千万人とは オーバーツーリズムの観光客だけが日本に来る、という可能性があるということを意味するかもしれない。

では、ウエルネス目的のツーリストを不満にさせる日本の理由は何だろうか?
ウエルネスツーリズムでツーリストを受け入れている国々の宿泊施設には、ウエルネス目的のゲストのための施設やプログラムが用意され、最低でも3泊以上、通常は1週間から2週間の滞在が出来るようなになっている。ところが、日本の宿泊施設ではこれまで国内マーケットだけを対象としていたために、連泊を前提とするようなオペレーションを行っていない。そのため、連泊客のための滞在プログラムやウエルネス専門タッフも当然用意されていない。
日本のウエルネスコンテンツを楽しむために来たが、そのためのウエルネスリゾートは無く、泊まった宿泊施設にもウエルネスプログラムは無く、大都市でエージェントが用意するコンテンツを体験して、日本で味わうのはオーバーツーリズムだけ、となるのであれば当然満足度は低いと思われる。確かに、風光明媚な場所があり、歴史的に重要な観光地であったり、美味しい食事を沢山楽しめたり、と日本での体験は刺激的であるせよ、だ。

現状のオーバーツーリズムを解消する手立てとして、地方へのツーリストの分散が言われているが、そのためのソフトインフラが用意されていない。
そのためには、まずはウエルネスツーリズムとは何かを理解し、時間はかかるが地方が持つウエルネスコンテンツの整理とプログラム化が必要だ。そして、宿泊施設は3連泊くらいまで普通にできるようにする。そもそも、毎日お客が入れ代わり立ち代わりするのは煩わしいと理解すべきだ。
日本のリゾートは基本的に週末型になっている。平日を埋めるのはインバウンドのツーリストと考えると、彼らを3泊させるプログラムを用意するという言い方にもなる。

日本のウエルネスコンテンツを宝の持ち腐れにしないためにも、日本型ウエルネスツーリズムを創り上げる必要がある。
そのためにJSWTはある。