ウエルネスリゾートのツーリズム戦略 -ホイアン編-
世界のツーリズムトレンドはウエルネスツーリズムと言われている。ヘルスツーリズムがトレンドの時代はスパがコアになるとよく言われていた。
良くできたスパリゾートにはメディアの露出が集中し人々の注目を集めていた。
しかし、ウエルネスツーリズムの時代になるとその意味する範囲が広がり、メンタルヘルスに注目が集まるようになっている。
具体的に言うと、健康・ヘルスは元々とても個人的な事柄で、そこにメンタル、感情的で情緒的な個人の世界を重ねてウエルネスと表現しそれを旅として体験する、となるとその中身はとても幅広いものになる。筆者は、その広い意味でのウエルネスコンテンツだと思うものを、ホイアンで見つけた。
ウエルネスデザイン
2023年にオープンした、ベトナムのホイアンに「ブリス・ホイアン・ビーチリゾート&ウエルネス」という新しいウエルネスコンセプトのリゾートがある。
筆者、ここで気が付いたのがウエルネスデザイン。
建物デザイン自体は直接的にウエルネスを感じさせるものではないが、問題はリゾートとして大事なランドスケープがウエルネス的にとても贅沢で、これまで見たリゾートの中でも特筆ものだった。
東京ドームの広さを一回り上回る敷地の大半が庭になっており、ビーチに面して200mの幅を持つ見通しの良い庭の中に137室のゲストルームがあり、中央にウエルネスセンターとしてのスパが配置されている。
高い位置からこのリゾート全体を見渡した時、登山で頂上に達し下界を見下ろしたときのような爽快さを感じた。なるほど、これをウエルネスデザインというのか、と感じ入った次第。
専門誌でウエルネスデザインの定義を見ると、お天父さんとどれくらい触れられるか、ということが書いてある。プライベートを追求するあまり、四方を壁で取り囲んだような施設はウエルネス的ではないようだ。
野菜畑をブランディング
更に感心したのが、ウエルネスツーリズムのデスティネーションとしてのホイアンの積極さだ。
ホイアンには世界遺産が2つある。一つは日本とのかかわりの深い日本人町のあった旧市街。
そして、チャム民族の王国遺跡である。それらは当たり前として、ホイアンの伝統的な野菜畑が今注目の観光スポットになっているのだ。
このブリスホイアンにはウエルネスコンセプトならあってもおかしくないオーガニックファームやハーブガーデンが無い。その理由を聞くとビーチ前の土地で畑作には合わない土壌だからとか。そして、わざわざ取ってつけたような畑なら本物の野菜畑を紹介する、というわけだ。

ホイアン旧市街から海に向かって3km、コーコー川の中州がトラ・ケ野菜村
日本のガイドブックには紹介されていないが、今ホイアンに来る観光客の多くが訪れる野菜畑がある。
トラ・ケ野菜村である。
約202世帯の農家、栽培面積は40ヘクタール、41種類以上の野菜やハーブが栽培されている。
化学肥料、農薬はおろか堆肥すら使用せず、コーコー川沿いの沖積土土壌と毎朝ラグーン、コーコー川から採取した藻を豊かな土壌に更に加え、高品質の農産物の生育を助けている。日本人町がこのホイアンにあった時300‐400年の伝統農法とか。
さほどの広さもない畑に多くの農家がおり、農業ビジネスが成り立つのかと不思議に思うのだが、種まきから収穫までわずか平均20日という、少量多品種だが回転の速さがそれを補っているようだ。
戦略的なデスティネーションづくり
2009年、ベトナムの知的財産局は野菜村に商標登録証を交付し、トラ・ケ野菜村の保護とブランディングを開始する。
2016年、伝統工芸村として正式に認定される。
2022年、国家無形文化遺産に認定される。
2024年、国連世界観光機関によって世界のベスト観光村に選ばれる。
ツーリストはこの野菜村の農法を見学し、体験し、畑を取り囲むように10数軒のレストランやカフェがあり、そこでは採れたての野菜を材料にホイアンの伝統料理の料理教室が行われ、ホイアンの郷土料理を楽しみ、あるいはカフェで畑を眺めてゆったりと時間を過ごす、という観光を楽しむ。
2018年NSPAはホイアンに研修旅行に来ているが、その時は噂にも聞かなかった野菜畑が今では主要な観光資源、ウエルネスコンテンツとして世界のツーリストを喜ばせている。
当たり前にあった野菜畑を行政が積極的にブランディングし育てる、という日本の行政でも普通にできそうなケースに思える、というのは筆者の思い過ごしだろうか。
Tra Que Vegetable village Hoi An: An ultimate travel guide - Best Beach Resort in Central