スパ業界がウエルネスツーリズムの旗を振る理由


現代のスパをイノベーションし大衆化させ一つの産業へと進化させたのは、実はホテル業界です。しかし、それは海外でのことですので、スパがツーリズムの潮流として進化していくことに唐突感を持たれる方々が日本にいるようです。日本のスパ業界は10年をワンサイクルとして、1から2サイクル遅れで日本のホテルや旅館にスパが導入されるようになりました。今世界のスパは、ウエルネスという広い意味を持った人類規模での新たな視点を持つに至っています。
以下、海外のこれまでの経緯を少し説明します。

ツーリズムを支える3大インフラとして挙げるとすれば、それは、宿泊施設と交通手段と食事になります。その内、宿泊施設は食事の提供を含めて大きな役割を担っていることになります。(今後、宿泊施設をホテルと表現します。)
ツーリズムを取り巻く状況は常に変化をしています。社会の状況や消費者のトレンドもあるし、ホテル同士の競合もあり、ホテル自身のハードもソフトも劣化していくという現実もあり、ツーリズムビジネスは常に安泰というわけではありません。
そこでホテルはそのツーリズムの主要な役割として、常に世相を注視し、それに対応するかそのトレンドの先取りをするわけです。それをホテルマーケティングといいます。マーケティングとして特に重要なのが、消費者の隠れた需要の掘り起こしです。
現代のスパはホテル業界が生み出しました。ですからスパ=ホテル⇒ツーリズムの柱というわけです。

1980年台後半から北米のホテルに併設されているフィットネス設備が、スパ施設として拡充し始めます。その流れは直ぐにアジアへと波及します。
筆者が日本で代理していたシンガポールのホテルは、人気のフィットネス・スポーツ設備を持っていました。サウナもプールもあります。そこに、当時人気の出始めたアロマを利用したマッサージ施設も追加されます。これがのちにセントグレゴリースパとなり、日本進出も果たすのですが、それは90年台初頭のことです。時を同じくして、プーケットにそれまで人々が想定していなかったタイプのスパが登場してきます。人間が持つ五感を直接刺激するオープンエアの、壁のないセラピー空間の中で、アジアの伝統療法をメニューに取り込んだスパがオープンするのです。これがバンヤンツリースパで、現在のホテル施設としてのスパのあり方を決定づけたスパだった思います。以後、世界各地の都市でもリゾートでもホテルにスパが導入されるようになります。このバンヤンツリーの立ち上げ前からバンヤンツリーの日本でのブランディングを始めた筆者は、スパがそこまで世界のツーリズムを動かすものになるとは想像だにしていませんでした。それを消費者の隠れた需要と判断できた企画チームには脱帽するしかなかったです。
この一連のスパのイノベーションを行ったのがホテルのオーナーであり、ホテルのスタッフ、特にマーケティングを行うスタッフということなのです。そのホテルスパがヘルスツーリズムへと導き、それぞれの国の観光・保健政策に影響をあたえ、今日ではウエルネスエコノミーという経済グループへと、引き続きツーリズム側から影響を与えているわけです。

残念なことに、日本の宿泊業には海外のようなホテルマーケティングの概念が無いので、海外の流行りの周回遅れで行くか、まだまだ試行錯誤の状態でしょうか。しかし、日本には他国には無い多くのウエルネスコンテンツを持っています。それらを利用して、日本ならではのウエルネスツーリズムを立ち上げることは可能だと思います。